「洋紙と用紙」第26回「中性紙」

古い文書が変色したり、ボロボロになったりしているのは、もしかすると酸性紙だからかもしれません。

古い文書が変色したり、ボロボロになったりしているのは、もしかすると酸性紙だからかもしれません。

中性紙

もし、洋紙の100年を振り返り、出来事の大きさに順番をつけるとしたら、中性紙の誕生はビッグ5に入るのではないかと私は思っています。中性紙が誕生し、使いはじめてみれば当然とも思えますが、洋紙史上一大改革であることは間違いないでしょう。

 中性紙の誕生

中性子紙とは、紙の状態でpHが7ないし弱アルカリ性になっていることをいいます。

これまでの洋紙は酸性でした。それなら酸性にアルカリ性を加えて中和すればいいではないかと思われるかもしれませんが、そう単純にいかなかったところに一定の歴史を必要としました。

まず、難問とされた酸性になる要素を取り除くことに成功しました。取り除くだけなら以前からできましたが、今回の成功は、取り除いたあと製品を商業ベースにのせることができたところに一大改革といえる所以があります。つまり、薬品効果、繊維結合、製造過程での泡の発生などたくさんの難題を解決し、しかも、用紙価格をアップさせることなく市場に送り出せたということにあります。

 洋紙と和紙

紙の寿命は洋紙100年、和紙1000年といわれてきました。和紙は1000年をこえる保存の歴史を立派に証明しています。

一方、洋紙は、100年余りの歴史をさまざまな改良を重ねながら現在に至っているわけですが、最近古くなった書物などに痛みが発生し、保存期間が表面化してきました。それが中性紙の誕生を急がせる要因ともなりました。今後、中性紙はそれらの問題を基本的に解決することになると思います。

手漉き和紙は化学薬品を使いません。和紙は植物繊維である靭皮繊維(植物の外皮にあるやわらかい皮の繊維)を自然の方法で取り出し、紙を漉きます。そのように自然の原理を応用して紙を漉きますから、化学変化を伴わず丈夫で長持ちする紙を作ることができます。和紙は最初から中性紙といえます。ただ泣きどころとしては量産に問題があります。

洋紙の方は逆に量産が本命であり、原料になる繊維から違います。洋紙は多量の木材(チップ)に化学的処理を施し、パルプ化し、紙を抄造しますが、その過程でサイズ剤・硫酸バンドなど化学的処理を必要とすることから、中性紙とならず現在に至ったといえます。

 中性紙の役割

中性紙は、洋紙を保存するうえで問題とされた劣化を、基本的に解決するために開発された紙といえます。

まだ出はじめて間もない紙ですが、中性紙の品種もだんだん増えており、今後は記録の長期保存も可能となり、歴史を支える役割を大きく果たすことになるでしょう。ただ、「中性紙」といちいち断らならければならないのは、まだ従来の酸性紙もあり、区別する必要があるからです。

なお、厳密にはパルプの配合によって保存上の差異があります。上級紙すなわち化学パルプ100%の紙は長期保存が可能となりましたが、機械パルプを含んだ中級紙などは機械パルプそのものが劣化するため、中性紙ではあっても問題はまだ残ります。また、古紙を使った再生紙も、古紙の内容によっては中級紙と同様な問題があります。

中性紙の外見は従来紙と変わらないだけでなく、かえって白さが増しています。中性紙を見分ける最も簡単な方法は、紙片を燃やしてみることです。燃え残った灰が白ければ中性紙、黒っぽければ従来紙(酸性紙)です。

どこが変わったか

中性紙も従来紙も同じ木材繊維を使っており、原料は変わりません。変わったのは、インキのにじみを防止する役目のサイズ剤の内容です。

従来のサイズ剤は、松ヤニを主成分とするロジンサイズが主流で、その定着剤として硫酸バンドが使われてきました。硫酸バンドが酸性の要因です。しかし、硫酸バンドを使わないと紙料段階で泡が発生し、その泡が繊維を分散させる、薬品が定着しないなど、結果としてまともな紙に仕上がらないという様々な要因があったからです。

そこに登場したのが中性サイズ剤です。これまでは、高価すぎて紙価への影響が大きすぎるため実用的ではありませんでしたが、改良されることによって使用に踏み切ることができ、今回の中性紙誕生の促進となりました。

中性サイズ剤の使用は塡料も変えました。従来のクレーやタルクにたいし、炭酸カルシウムを使えるようになりました。炭酸カルシウムは、クレーやタルクより白色度が高いこともあり、それを使用した中性紙は白くなるという効果も伴いました。

こうした改革が、紙価上昇を伴わずに解決できたのが何よりの福音でした。

 中性紙の現状

中性紙の普及によって、従来紙がだめだというと偏見になります。長期の保存を必要とするものには、中性紙が適しているといったほうが正確でしょう。チラシなど一度の利用で目的を達する用途には、従来紙でも差支えないといえます。

個人的な用途では、日記や記録など長期に保存しておきたいものであれば、中性紙を使った品をお薦めします。

いま、中性紙への移行はだんだんと進んでいます。移行過程の問題の一つに古紙があります。集荷された古紙のなかに従来紙と中性紙が混じっていると、再生処理段階で「泡」を発生させるなど厄介な問題もあり、そういう面からも移行はいくつかの問題を解決しながら進行することになるでしょう。

(注 現在では、ほとんどの洋紙が中性紙として生産されています)

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