第4回 紙も日焼けします
紙も日焼けします
たとえば、新聞紙を直射日光のもとに30分ほど置いた場合、日にあたった面とあたらなかった面とでは紙の色が違ってきます。人の肌も日焼けするように、紙も日焼けするからです。人の肌はやがて元の色にもどりますが、紙はいったん焼けると変色したまま定着してしまうので、取り扱いには注意を必要とします。
日焼けの原因
前述の新聞紙の例ほど顕著ではありませんが、紙の変色は通常でも少しずつ進みます。その現れかたは、紙を構成する成分の分布状態によって異なります。
紙の変色をより促進させる成分にリグニンがあります。リグニンは酸化されやすく、紫外線によってさらに加速される性質をもっていますから、リグニンを多く含んだ繊維即ちパルプを多く使用した紙ほど変色しやすいことになります。また、リグニンは紙を劣化させる原因にもなります。
リグニンは木材繊維の主成分のひとつですが、どの紙にも入っているわけではありません。リグニンの含有率は針葉樹材で30%内外、広葉樹材で20%内外といわれています。パルプのなかでも、CPすなわち化学パルプは、パルプ生成の過程でリグニンが取り除かれるので残りませんが、機械パルプつまりGP(グランドウッド・パルプ)などはだいたいそのまま残ります。
そのような訳で、紙の品種の中で日焼けしやすい順序としては、上級紙よりリグニンを多く含んだ中・下級紙のほうがより変色しやすいということになります。
パルプの配合
紙は、パルプや添加する薬品の配合を変えることによって品質に変化をだします。
たとえば、JISで規定されている印刷用紙A・B・C・Dの配合をみると、印刷用紙AはCP(化学パルプ)が100%ですが、以下B、C、Dの順でCPの配合率が減り、その分だけ機械パルプ配合率が増えてきます。印刷用紙Dの配合率ではCP40%未満。(※注)
このように、上級紙よりも下級紙のほうが変色しやすい原因は、パルプの配合でも機械パルプの配合率の高低が大きく影響しているということになります。
とは言っても上級紙も直射日光を浴びたりすると紙質が変化し、色も変わってきます。また、紙は時間との関係もありますが、化学的変化によって目に見えないところで少しずつ褪色します。包装しておいた紙でも、紙の端から5~10㎝ほど変色した例もあります。この傾向は機械パルプを多く使った下級紙ほど顕著な現れかたをします。
(※注 その後JISが改定され、現在では印刷用紙A・B・C・Dの区分はCPの配合率ではなく、白色度を基準にしています。古紙パルプの大量配合が可能になったことが改定の背景にあります。)
用途にあった活用を
以上のように紙の褪色問題を書いてくると、下級紙はなにか良くないような印象を与えそうですが、下級紙は下級紙なりのメリットをもった立派な紙であることを付け加えておきます。
下級紙の主な用途は長期保存を目的にしたものというより、一度目をとおしたら目的を達するというような新聞や雑誌など情報伝達の分野に欠かすことのできないシェアをもっています。そういう用途には、下級紙は価格的にも品質的にも適していると言えるでしょう。
機械パルプを多く使った紙は白色度こそ下がりますが、そのかわり不透明が高くなり薄い紙に両面印刷しても裏透き(プリントスルー=表の印刷が光学的に裏から透けてみえる現象)が少ないという特徴があります。同ランク上級紙に比べると、下級紙になるほど裏透きが少なくなるのはこうした要因があるからです。
保存を必要とする紙は褪色させたくないものです。それには保存方法とともに、用途にあった紙選びも大切な要素となります。洋紙は多品種です。適切な紙を選ぶヒントになれば幸いです。