第5回「紙と刃先の関係―洋紙の成分」

紙と刃先の関係―洋紙の成分

 

布を切るためのハサミで紙を切ると、そのハサミの切れ味は悪くなるとよく言われますが、それは本当です。

紙(洋紙)の主原料は木材繊維、一方、布のほうは木綿や麻など植物繊維(化学繊維を除く)です。主成分は同じセルロースです。布と紙では硬さに違いはあっても、同じ繊維分なのになぜ切れ味に違いが出てくるのでしょうか。

 

主な原因は塡料

 

手漉きの和紙は塡料を加えずに仕上げますが、洋紙のなかでも印刷や出版用途の紙には塡料や染料などの添加が欠かせない要素となっています。

ハサミなど、刃先をいためる主な要因は塡料にあります。塡料の主成分は鉱物の微粉末です。塡料の種類には、従来から使われているクレーやタルク、そして中性紙用の炭酸カルシウムなどがあります。白土ともいわれるように白い土、すなわち鉱物の微粉末ですから刃物にとっては大敵になります。

しかし洋紙の多くは、この塡料を加えることによって品質を保持します。そこに、塡料の大切さがあると同時に、添加にともなう弊害も表裏の関係として発生してくることになります。

洋紙は、繊維と繊維がからみあって層を作っていますが、そのままでは空間が多すぎて印刷や筆記に適しません。塡料はその空間を埋め、紙になめらかさを与える重要な役割を担っています。同時に、裏側に印刷された文字や画像が、表側から透けて見えないための不透明度を増す役割も持っています。そうした意味からも塡料は紙を構成する大切な役割をもっており、除くことはできない関係にあります。

 

紙を切る

 

洋紙を切るということは、繊維といっしょに鉱物の粉も切ることになります。従って刃先はいたみます。

紙質の違いによるいたみ方の差としては、上質紙や書籍用紙など非塗工紙にも塡料は添加されていますから、いま述べたような要因で刃先はいたみます。コート紙やアート紙など塗工紙は、紙の表面にも顔料として塡料と同じような微粉末が塗られていますから、障害は非塗工紙よりも大きくなります。

洋紙でも塡料を使っていない品種もあります。それらは木材繊維を切るだけですから、塡料入りの紙よりも刃先は長持ちするといえます。

普通の布地は、刃先を傷めるような物質が入っていないので障害も少ないし、紙を切る場合よりずっと刃先が長持ちするわけです。

以上のような次第で、ハサミ(刃物)の使い分けが必要となります。

印刷では、一定の大きさに切った紙に印刷するか、印刷したあとで必要な大きさに裁ちを入れるか、いずれにしても紙を切るという工程を離れては仕事になりません。

紙を切ることを紙の関係では「断截」といいます。断截には専用の機械「断截機」を使いますが、そのような専用機でも刃先はいたみます。少しオーバーな言い方ですが、切れない刃で紙を切り続けていると、紙が引き裂かれた状態になり、紙粉や紙片クズを発生させることになります。そうした状態を未然に防ぐため、断截機の刃先は慎重に管理され、刃先の交換も頻繁に行われています。

紙と刃物は決して良い仲ではありませんが、切っても切れない仲であるともいえます。切れ味問題を取り上げてみましたが、紙の性質の問題でもあります。日常生活に欠かせない紙も、たくさんの長所のなかに短所もあるという話でした。

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