第6回「紙・湿気・通気性」

紙・湿気・通気性

 

紙というのは、水濡れしたり湿気を多量に含んだりすると、品質的にも構造的にも良いことはないというのが話のポイントです。

たとえば、水に浸した上質紙を乾かし、もう一度厚みを測ってみると、正常の厚みに対して約10%ほどふくらんだ状態に変化し、もとの厚さには戻りません。とくに、本のようにきちんと折り重ねられた製品は、万一水を吸ったとしたら乾かしてもピタッと閉じることができなくなりますから、取り扱いには注意したいものです。

 

なぜふくらんだままになるか

 

紙は繊維と繊維がからみあい、結合して層をつくっています。からみあった繊維の間には適度の空間があり、その空間が紙独特の風合いをつくり出すとともに、通気性という特性ももたせています。

木材繊維の主成分はセルロース。セルロースは吸液性が強い性質をもっています。紙に触れた水は、毛細管現象によっても繊維と繊維の間にくまなく入り込み、また繊維そのものも膨張させ紙層全体をふくらませる作用を及ぼします。そのあと水分を蒸発させても、水分だけが抜け出るため、紙としてはふくらんだままになります。

 

紙ができる過程で

 

紙は、抄紙工程の最終的段階であるカレンダーを通過するところで、厚みや表面光沢などが調整され、ほぼ品質上の最後の調整が完了します。カレンダーの働きを簡単にいうと紙にプレスをするところで、金属の重いロールが8本くらい(マシンによって異なりますが)縦型に組み込まれた装置です。ドライヤーを通過した紙は、この重いロールの間をSの字状に何回か通ることによって、適度のしまりや光沢を与えられます。

こうして仕上げられた紙ですから、濡れたからといってアイロンで乾かし、多少プレスしたくらいでは、とても元通りの厚さや光沢を取り戻せるものではありません。また、表面上のこと以外に、水に濡れた紙は品質を構成している薬品効果を低下させますから、いろいろな意味において弊害は大きいといえます。

通常の洋紙の水分は、5~7%が適度とされていますから、それ以上でも以下でも良い状態とはいえません。

 

通気性

 

紙の通気性(透気度)は、繊維と繊維のわずかな空間から空気が出入りする状態をいいます。紙は多孔質構造です。紙に筆記や印刷ができるということは、毛細管現象によって水やインキをよく吸収するからです。こうした構造は紙の特性でもあります。一方、塗工紙のように顔料で表面加工を施した紙は、非塗工紙に比べると通気性がほとんどないといえますが、塗工紙の表面は毛細管が細かいこともあり吸液性は大きく、同じインキを使った場合、塗工紙のほうが非塗工紙よりインキのセット(インキが紙に浸透し粘着性が失われる状態)は速やかです。

紙に必要以上の水分が含まれると、その空間が密閉状態になり通気性を失います。逆に乾燥し過ぎると空気の通り抜けが良くなり過ぎます。「紙が呼吸する」という状態です。紙の水分調整は、こうしたことも配慮したうえで行われています。

 

紙の特性活用のいろいろ

 

通気性という紙の特性を生かした使い方に包装紙があります。

包装紙にはいろいろありますが、たとえば、新聞紙で野菜を包むのも紙の性質をよく表した使い方といえるでしょう。白菜を新聞紙で包んでおくと長持ちするといわれるのは、新聞紙が白菜から出た水分を適度に含むとともに、外気との遮蔽物となって水分を徐々に放出しながら中身を保護するからです。一方、ポリ袋などで完全に密閉した場合、湿気は放出されないため中はむれてきます。温かいおにぎりに、ポリエチレンのラップのように通気性を防止したものをかけておくと、内側に水滴がたまるのも同じ理由です。紙と違うところです。紙で包んだ場合は、紙のほうに水分が吸収され、包み紙はベトついていても中身の味は保存されるようです。

また、紙は熱を通しにくいので外気との遮断ができます。日本古来の障子紙はこの特性を生かしたものです。大きい氷を持ち運びするときも、新聞紙などで巻いておくと持ちが良いと言われます。冷凍品を持ち運びするときも同じで、適当な容器がなかったら紙を幾重かに巻いておくだけで大分違います。

一例を加えてみましたが、資源の保護が重視されている今日、このように紙の特性をうまく活用すると、筆記や印刷など通常の用途以外にもいろいろと役に立つ使い方ができるようです。

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